2023年10月24日火曜日

03.Volumioの現在と未来

オーディオメーカーとしてのVolumio


 ハードウェア3製品の登場  



現在、Volumioのハードウェアはさらなる進化を遂げている。

まずVolumioを乗せたコンピュータはASUSからさらにオーディオに向き、性能の優れたKhadasに変更されている。そしてハードウェア部分も進化している。
初代Primoだけだったラインナップは、3種類に増えた。
(現行)Primo,Rivo,Integroだ。


これはVolumioに3通りの使い方があると言い換えることができるかもしれない。Primoは価格と性能のバランスを取った入手しやすい機種でDACを内蔵していてアナログ出力ができる。そのため後段に好みのアンプを組み合わせる人に向いている。
Rivoはマニア向け。やや高価だが優れた性能を持ったデジタル送り出し専用のトランスポートで、高性能単体DACを持っている人向けだ。そしてIntegroはDACのみならずスピーカーアンプやヘッドフォンアンプまで内蔵した一体型で 3機種の中で最も使いやすいモデルである。

さらにそれぞれのソフトウェアの最適化にはハードウェアとソフトウェアの組み合わせが必要になるため、ハードウェアは3機種ともそれぞれ音質に影響する重要なコンポーネントを考慮しながら個別にソフトウェアの調整がなされている。

これは3つの製品に対して、それぞれ最適のチューニングを加えているということだ。
そして製品群はどれもイタリアのフィレンツェでハンドビルドされている。


 音質への徹底したこだわり 



このように3機種ともに個性を持っていて、ポイントになるのは自分のシステムがどのくらいのレベルで、なにを必要としているかで選択が変わってくるということだ。
そしてそれぞれのモデルはオーディオ機器としての特徴を備えている。
現行のPrimoはシンプルだが素っ気のない黒箱だった初代Primoに対してデザインからすべてが再設計され、オーディオ機器らしいリビングに置いて映えるような美しい外観を得ている。ESS社のDAC ICである ES9038Q2Mは低ジッターを考慮したI2Sのディファレンシャル・コンフィギュレーションでデジタル入力部に接続されている。
デジタルトランスポートである Rivoの場合は電源フィルタリングに重点を置き、デジタル出力ごとに電源レールを分離し、USBリクロッキングには専用のICを使用している。


また、SPDIFデジタル出力に方向性電磁鋼板を用いたトランスを複数個使用し、デジタル出力のガルバニック・アイソレーションを確保している。こうした音質向上のための工夫はハイエンドオーディオ機材が行うようなものだ。デジタル入力をデジタルで出力するということは簡単なことのように思えるが、実は Rivoが開発にもっとも時間のかかった機種であるという。このような工夫によりRivoは接続されたDACの性能を十二分に引き出すことができる。



さらに驚いたのは Integroである。 Integroはスピーカーを駆動するアンプの部分はドイツのInfineon社が開発したフルデジタルアンプを採用している。フルデジタルアンプとはデジタル信号を直接アンプ入力できるようにした設計のことで、これによって入力から増幅までを全てデジタルで行うことができる。それに対して一般的なデジタルアンプでは DACとアンプの間でいったんアナログに落とすことが必要になるのでその変換工程で音質が劣化してしまう。フルデジタルアンプであれば全工程をデジタルのままで増幅できるのでそうした音質の劣化がない。Infineonのフルデジタルアンプはさらに多段階に増幅を行うことで音質を向上させる独自のノウハウも有している。
 

加えてヘッドフォンアンプも昔のオーディオのヘッドフォン端子のように単なるおまけのような扱いではない。据え置きのヘッドフォンアンプでも採用されるようなヘッドフォンアンプ専用IC を採用した本格的なものだ。実際に音を聞いてみると鳴らしにくいハイインピーダンスのヘッドフォンでも十分に駆動してしまう高い音性能を実現している。
このためにIntegroは手軽さが売りだと単純に言い切ることができない。前言と矛盾するようではあるが、単に Integroはカジュアルユーザーのための手軽な機材というだけではなく、このようにとてもオーディオ的に凝った設計がなされた個性的な製品なのだ。


この点でVolumioはもはやラズベリーパイのOSを提供するだけの会社ではなく、オーディオメーカーとして考えた方が良いということを感じさせてくれる。

 AI搭載で新たな次元へ 


そしてVolumioはオーディオメーカーとして日本にやってきた。10年前には考えもしなかったことだ。
前述のように私は発表会でミケランジェロ氏と少し話し込んだのだが、そのうち二つのことに気がついた。一つはこれまで述べてきたようにVolumioはもはやラズベリーパイの会社ではなく第一線のオーディオメーカーであるということ、そしてもう一つはそれならば単なる昔話をするだけではなくこれからの話を聞くべきだと思ったことだ。


そこでいくつかミケランジェロ氏にこれからの話も聞いてみた。そこで聞いたのはいずれVolumioを戸外でも使えるようにしたいということや、AIを使用してさらに使いやすくしたいというような将来の展望だった。
そしてそのうち一つであるAI の応用は既に実現されている。
最新のVolumioの"Super Search"機能だ。驚くことにこれは最新の生成 AIのChatGPTをオーディオの検索に応用したものだ。この機能においては「静かさと躍動的なパートが繰り返されるドラマティックな音楽」というように自然言語で曲の検索が可能となる。しかも生成 AI が誤答するという課題にも正面から取り組んでいて、他のデータベースとの併用で誤答を減らすという作り込みまでしているのだ。単にアイディアだけの機能ではない点にミケランジェロ氏の情熱と製品にかける真摯な態度を感じる。


今後のVolumioのさらなる進化も楽しみだ。こうしたオーディオの未来への積極的な取り組みを考えると、まだまだ Volumioは成長期でありつづけるだろうから。


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佐々木喜洋

個性的な海外オーディオ機器の音に魅入られてオーディオの世界に足を踏み入れ、やがてiPodなど当時勃興してきたポータブル機器にもオーディオ的なアプローチができないかと興味を持っていく。     
メーカーでの技術者時代にブログMusic To Goを運営開始してオーディオ関連の執筆活動を始め、海外の最新情報や技術的な解説が得意で人気を博する。やがて雑誌などにも執筆を開始。特にヘッドホンやポータブルオーディオ、PCオーディオに造詣が深い。コンピュータ分野では情報処理の国家資格を持つ。現在はASCII.jpにポータブルオーディオの最新情報の連載を執筆し、音元やCDジャーナル等のメディアなどにも執筆をしている。




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