2023年10月24日火曜日

01.Volumioの誕生


Raspberry Pi(ラズベリーパイ)のRaspyFiとして


2023/10 オーディオライター 佐々木喜洋

 RaspyFiとの出会い 

2023年4月にトップウイング・サイバーサウンドグループがイタリアの Volumio 製品を新たに取り扱うと発表した。私自身も以前ラズベリーパイでVolumioを使っていたこともあり、発表会ではCEO のミケランジェロ・ガリーセ氏とそうした昔話に花を咲かせたりもした。私がVolumioを使い始めたのはもう10 年も前になるが、当時はRaspyFiと呼ばれていた。その時にはまさか自分がその開発者と日本で話をすることなど考えもしなかった。

この間にPCオーディオやネットワークオーディオはまっすぐ進化してきたわけではなく紆余曲折があったのだが、Volumio が今ここに残って大きく成長したのは驚くべきことだ。



その秘密を探るには、まず10 年前の 2013 年に話を戻すべきかもしれない。
始まりは本当に小さなひと雫だったのだ。

その頃「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」というシングルボード・コンピュータ(小さな基板だけの PC)が世間を賑わせていた。ラズベリーパイは元々、手に乗るような小型のシングルボード・コンピュータで、イギリスで教育目的として開発され、剥き出しの基板のみで販売されていた。価格はわずか4000円ほどだ。当時の秋葉原に集うような界隈には激震が走った。皆が飛びついたが、私もそうした一人だった。

ラズベリーパイを見た時に思いついたのは小型で低価格のPCオーディオに使えるのではないかということだ。しかしそのためには核となるラズベリーパイのOSが必要であり、そこまで自作することはできない。

そこでネット上のラズベリーパイのコミュニティで情報を探すことにした。実のところいくつかは見つかったのだが、当時ラズベリーパイでよく使われていたのはオーディオビジュアル目的のHDMI出力をメインにしたOSだった。しかし私が欲しかったのはUSB DACの母艦として使えるようなピュア・オーディオのためのOSであった。そしてやっと見つけたのがイタリアのミケランジェロ・ガリーセという人物が開発した音楽専用の「RaspyFi」とい うソフトウェアだった。そう、これがVolumioの前身となったソフトウェアだった。名前は "Audio Fidelity for Raspberry Pi" に由来する。


ソフトウェアとして説明すると、 RaspyFi はLinux のカスタマイズOSでディストリビューションと呼ばれているものだ。つまりはオーディオ向けのLinux OSである。RaspyFiにはMPDという高性能の音楽再生ソフトウェアが初めから入っていた。MPDは楽曲を管理して再生したり、コントローラーと通信する機能がある。もちろん標準でUSB DACを使用することができ、さらには音楽向けに軽くして音をよくするなどのソフトウェアの調整も行われていた。Volumioは初めからそうした細かい点まで考えられた、オーディオマニアのためのソフトウェアだったのだ。

 RaspyFi の理念は 
「5分で良い音が出せる」こと 


ミケランジェロ氏がRaspyFi を始めたのは学生の頃にターンテーブルで音楽の感動を知った頃に遡る。しかしハイレゾ音源ではアナログのように思うような再生ができなかったという苛立ちもあり、デジタルにおいての手法を探り始めたという。そうしてみるとオーディオマニアが非常に高価な「オーディオ用PC」を作っていることを知り同様に試していたところ、ラズベリーパイの発表を知って、これが自分の考える「シンプルさこそ究極である」の哲学に合致すると感じたそうだ。オープンソースのソフトウェアと安価なハードウェアを組み合わせることで、誰でも気軽に高音質なオーディオを楽しむことができる環境を提供することを目標として、ラズベリーパイに合わせたLinuxのディストリビューションを開発して公開したところ大きな反響を得たそうだ。その中の一人が遠い日本にいた私である。


私がそうしてRaspyFiを見つけた時には心が躍ったが、まず使えるようにしなければならない。そのためにはラズベリーパイにRaspyFiをインストールする必要がある。これにはネットからソフトウェアをダウンロードしてSDカードに格納して立ち上げるという手順が必要となる。問題だったのはソフトウェアが立ち上がるまではネットに接続すらできないので、基板だけのラズベリーパイにRaspyFi のインストールのためだけにHDMIでモニターを接続しなければならないことだ。もちろんキーボードも必要なことは言うまでもない。
当然このために小型のHDMIモニターやキーボードも購入した。

そしてOS がインストールできて、ネットに接続できるようになるとHDMIモニターやキーボードは不要となり、やっと本番の設定作業ができるようになる。
そして今度はiPadにMPDの設定用のアプリをインストールして、リモートで作業をする。
そしてラズベリーパイのIPアドレスを知るためにLinuxのOSのコマンドを叩いてネットワークアドレスを表示させることが必要となる。もちろんそのコマンドも自分で調べるわけだ。
これはその手のソフトウェアとしてはかなり簡単な法だが、実のところかなり面倒臭かった。

また多くの専門的な知識が必要となる。そしてここまでやってインストールがすんなり成功するとは限らないのである。
しかし、今のVolumioユーザーはもちろんこうした面倒臭さからは解放されているわけだ。これは「箱で提供して5分で良い音が出せる形が望ましい」というミケランジェロ氏の理念によるもので、いわばアップルのように完全な形でサービスとハードを届けたいという考えからきている。

 拡大するRaspyFi 


こうしてRaspyFiを無事に使えるようになると私がやったのは、安価な手製のネットワークプレーヤーを自分で作るということだった。RaspyFiのインストールされたラズベリーパイをオーディオ用PCに見立てて、まずラズベリーパイのUSB端子でUSB DACと接続する。ラズベリーパイにはアナログ出力端子もあるのだが、とりあえず音声が出せるという程度の音質でしかなかった。もちろんミケランジェロ氏もUSB DACを接続する想定をしていて、ラズベリーパイのUSBでの給電能力の確認もしていた。これはとても助かったのを覚えている。

またラズベリーパイに使用する5V電源は低品質のものが多く、ラズベリーパイは電源に起因する不調が多かった。このためミケランジェロ氏は自分でさまざまな市販の5V電源に繋いでテストして、もっとも安定して優れていた機材の情報も共有していた。
ちなみに彼はRaspyFiのためのオーディオ用のクリーン電源装置まで自作して、ノウハウまで公開していたのである。

 

ここでやっと市販のUSB DACに接続して音を聞いてみたのだが、その音質は素晴らしかった。よく聴く良録音の曲を本気で聞いてみたが透明感がとても高く、ウッドベースの歯切れも良い。ハイレゾは192kHz/24bit まで対応でき、さらにDSDのネイティブ再生まで可能だった。RaspyFiの音は手持ちのDACが生まれ変わるように優れた音質であり、動作も安定していた。
アップサンプリングまで可能だったが、当時のCPUではアップサンプリングをすると音が途切れてしまった。わずか4000円のコンピューターで大きなサウンドが出せるRaspyFiはこうして生まれてきた。RaspyFiの始動はトラブル解決を趣味の一つにしていなければ到底進めないようなものだった。ミケランジェロ氏自身もユーザーたちを引っ張っていき、RaspyFiのコミュニティも誕生したのだ。





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